夏期セミナー in ”胎内”

主催:顎口腔機能研究会

期日:8月25日(日)-28日(水)

場所:胎内パークホテル    新潟県北蒲原郡黒川村夏井 tel:0254-48-3321

日程表 8/25(日)
18:00-20:00 開講式,歓迎パーティー

8/26(月)
8:30-10:00 ①[26-1 顎運動・筋疲労・疼痛の生理]
10:00-10:10 (休憩)
10:10-11:40 ②[26-2 咀嚼筋活動の特徴]
10:40-12:10 フォーラム
12:10-13:00 (昼食)
13:00-14:30 ③[26-3 筋電図の測定・分析法]
14:30-14:45 (休憩)
14:45-17:45 ④実習 [26-4 筋電図の測定と分析の実際]
18:00-20:00 懇親会

8/27(火)
8:30-10:00 ⑤[27-1 筋電図からみた顎口腔機能障害]
10:00-10:30 (休憩)
10:30-12:00 ⑥[27-2 顎運動の測定・分析法]
12:00-13:00 (昼食)
13:00-15:00 ⑦[27-3 咬合と顎運動] デモンストレーションを含む
15:00-18:00 自由時間

8/28(水)
8:30-10:30 ⑧[28-1 咀嚼運動の機能分析による顎口腔機能障害の診断]
10:30-11:00 閉講式


目次 内容                    ・/P>

①[26-1 顎運動・筋疲労・疼痛の生理]-----------------------

②[26-2 咀嚼筋活動の特徴]---------------------------------

③[26-3 筋電図の測定・分析法]------------------------------

④実習 [26-4 筋電図の測定と分析の実際]--------------------

⑤[27-1 筋電図からみた顎口腔機能障害]---------------------

⑥[27-2 顎運動の測定・分析法]-----------------------------

⑦[27-3 咬合と顎運動]-------------------------------------

⑧[28-1 咀嚼運動の機能分析による顎口腔機能障害の診断]-----

名簿---------------------------------------------------------


① [26-1 顎運動・筋疲労・疼痛の生理]

 長崎大学歯学部 口腔生理学教室

      山田好秋 

1.運動制御:咀嚼・歩行・呼吸運動を比較して

運動機能は,実験心理学や神経生理学などの分野で研究されてきた. 前者では行動そのものが自動制御論・情報理論などを基に解析され,後者では動物を対象に,神経回路・シナプス機序・ニューロンの発火パタンなどが研究されてきた.運動統御の神経機構を理解するためには,神経機構の活動と,実際に実行された運動を対比する必要がある.

1).随意運動制御の脊髄神経機構と三叉神経機構

 Ia線維が関与する反射:Ia線維は,脊髄神経機構では,その主たる投射として,同名筋(筋紡錘の起源となる筋)および協同筋の運動ニューロンと単シナプス性興奮結合(伸張反射)を,拮抗筋の運動ニューロンと2シナプス性の抑制結合(拮抗抑制)を持つ.しかし,三叉神経機構では,閉口筋群には筋紡錘が豊富に存在しているにも関わらず,開口筋群には筋紡錘の存在がまれか,あるいは欠如している.従って,下顎が外力で開口方向に変位すると,筋紡錘の発火がIaを経由し下顎閉口筋群(同名筋および協同筋)に単シナプス性興奮反射(下顎張反射)を誘発する.しかし,外力による下顎閉口方向の変位を与えても,開口筋には単シナプス性の反射活動は誘発されない.また,開口筋運動ニューロンと閉口筋運動ニューロンには,脊髄神経機構に備わっている拮抗抑制(Ia抑制)機構が欠如している.(脊髄神経機構でもこの拮抗抑制は伸筋と屈筋の間で観察される反射であり,外転筋・内転筋の間では見つかっていない.)開口筋と閉口筋の関係は,脊髄神経機構における伸筋と屈筋の関係とはかなり異なっている. 筋伸張による興奮性反射作用は,伸張された筋自身とその協同筋の運動ニューロンに対しておよぶ.その効果は同名筋に対してもっとも強く,通常は反射性収縮を起こすのは同名筋に限局される.この反射は同側性であり,下顎閉口筋の場合でも,刺激が一側の筋に限局することが出来れば,反対側の筋には反射活動は記録されない.伸張反射はその時間経過によって,筋が伸張されつつある期間に現れる相動性伸張反射と,伸張が持続されている間持続して現れる緊張性伸張反射,の2つの成分に分けることが出来る.前者は筋紡錘一次終末の動的反応の高頻度発射により起こり,後者は一次終末と二次終末の静的反応による.腱反射は相動性伸張反射の一種であり,正常な状態で観察される.緊張性伸張反射は健常なヒトでは見られないのが普通である.森本は閉口筋の緊張亢進がバイトプレーンで改善することことから,この緊張亢進が筋感覚の異常に起因していると示唆している.

 その他の多シナプス性反射:同名筋・協同筋運動ニューロンへの興奮性Ia入力には単シナプス性のみに限らず,多シナプス性結合もあることが従来より推測されてきたが,その実体は,いわゆる長潜時反射(long latency reflex)との関連も含めて,今日でも明かではない.しかし,Ia群線維はIa抑制ニューロン以外の脊髄内ニューロンにも接続している.Ib反射回路の介在ニューロン,背側・腹側脊髄小脳路ニューロン,脊髄固有ニューロンなどは,その所在・生理学的性質ともに同定されている.最近,運動ニューロンに投射するIb介在ニューロンにIa群線維が集束する仕組みの解析が進んでいる.一般にはこのニューロンへのIa入力の強度はIbのそれに比べかなり弱いとされている.しかし,このIa集束の存在は,これがIb反射回路に介在することによって,Ia独自の相反性反射結合パタンを超えた広がりのある機能を持つ可能性があることを示唆している.

 Ib線維が関与する反射:Ib反射は逆伸張反射と呼ばれるように,協同筋に対しては抑制,拮抗筋に対しては促通効果をもつ.この反射は,対象となる動物標本の違いにも左右される.すなわち,上位脳による調節の存在が示唆される.さらにこの系は直接の拮抗筋同士の結合にとどまらず近隣の筋群へも広く投射しており,Ia反射回路が本来相反性結合に限定されておらず(非相反性),その活動パタンが上位脳の働きかけにより適時変更される可能性を示唆している. ゴルジ腱受容器は筋の張力受容器であり,筋紡錘とともに運動の調節に重要な役割を果たす.腱受容器は筋線維が腱に移行する部分に存在し,1つの腱受容器は通常5~25本の筋線維の束に直列に連なる.これらの筋線維が収縮すると腱受容器の感覚終末が変形し,インパルスを発生する.その感度は高く,単一の運動単位の活動に対しても十分に反応する.この時,外部から測定される腱の張力は,0.5~3 gという低い値を示すが,受容器に対する閾値の張力はさらに一段と小さいと考えられる.これに反し,外力によって伸張したときの反応の閾値は高い(5~200 g).腱受容器は外力よりもむしろ筋の活動張力を敏感に検出するのに適した張力受容器であるといえる.

 シナプス前抑制:脊髄ネコの腰仙髄でIa群線維のシナプス前抑制を生じる線維群とその分布が調べられている.その結果,Ia群線維,Ib群線維のどちらもこの抑制に関与しているが,後者の方が効果は強いようである.また,屈筋神経の方が伸筋神経より強い効果を持つ.この効果はヒトで確認することはかなり困難であるが,60年代半ばに持続性筋振動反射(tonic vibration reflex: TVR)の手法が取り入れられ,筋に一定の時間間隔で腱反射あるいはH反射を誘発しながら数十サイクルの振動刺激を持続的に加えると,これらの相性の反射が著名に減少することが示された.しかし,厳密な実験条件の得られる動物実験での結果を単純にヒトに当てはめるのは危険である.ヒトで実際に用いられる振動刺激は,ネコでの実験と違って容易に周囲の筋群に影響する強度である.従って,振動による反射の抑制がこれらの筋,特に拮抗筋の筋紡錘の興奮により生じる可能性を否定できず,現状では,シナプス前抑制の定量的検定に用いるのは危険である.

2).運動の分類と運動制御

目的とする運動を遂行するために脳内で形成されるプログラム(運動プログラム)の構成について,その制御方式の違いから次の2つの仮説が生まれた.

*閉ループ制御(末梢説)   脳は実行している運動の過程を種々の感覚器官を通じてモニターしながら逐次運動プログラムの構成と実行を進めていく.この制御方法は,かたにはまった運動はすばやく遂行できるが,動作のエラー修正が困難である. *開ループ制御(中枢説)   この制御方法では,脳は運動指令の全連鎖(中枢プログラム)を予め作成し,実行の過程で生じる感覚情報にはとらわれない.

我々の研究の対象となる咀嚼運動や,これと類似した歩行・呼吸運動といった周期的な運動は,基本的には開ループ制御によって行われることが明らかになった.

咀嚼リズム発生器:咀嚼時の顎および舌の運動パタンは食性や食品のテクスチャーによってさまざまである.しかし,個々の運動には基本的なリズムがある.大脳皮質を電気刺激すると,この咀嚼運動に類似した周期的な顎の運動が誘発される.この皮質領域を皮質咀嚼野と呼んでいる.この部位を電気刺激すると,筋弛緩剤により出力としての運動が形成されないにもかかわらず,運動神経からは筋弛緩以前と同様の周期的な運動パタンが記録される.すなわち,中枢性に形成された運動パタンが,末梢からのフィードバックなしでその運動を継続できるわけで,咀嚼運動が開ループ制御であることを証明している.現在この咀嚼運動の基本的なリズムは脳幹網様体,特に延髄内側部に存在することが明らかにされている. しかし,実際の運動パタンは末梢性制御を受けている.延髄の咀嚼リズム発生器から運動神経へのリズミカルな入力は,主に開口筋の促通と,開口筋の抑制である.すなわち,咀嚼リズム発生器だけでは開口筋と閉口筋の交代制の運動制御は行われない.事実,咀嚼時の閉口筋活動は食品のテクスチャーにより大きく変化し,末梢からのフィードバックが中枢性に形成されたリズムと組み合わされることで遂行されることをうかがわせている.臨床的にはこの中枢性に形成されるプログラムと末梢からのフィードバックの関連が興味の対象となるが,この関係を研究するためには,個々の運動を分類して理解しておく必要がある.そこで,脊髄神経機構を研究するために用いられている運動の分類と,研究方法との関連,そして一般的な運動制御について解説する.

2.三叉神経系の特殊性

顎口腔器官には,顎骨や,舌・歯列といった特殊な器官が存在するだけでなく,筋線維・固有受容器・外受容器のような運動制御に重要な構成要素,さらにはレンショウ抑制,相反性抑制機構など,神経回路にも脊髄神経機構と比較して多くの違いがある.この相違を,特に閉口筋の一過性抑制で知られる silent period を例にとって,解説する.  `silent period' (SP)という用語は,持続的な筋活動を背景に観察される一過性の,相対的あるいは完全な筋活動の減少である.筋電図学的には疲労・振戦(tremor)・クローヌスなどに伴って記録されるが,SPという用語は,ヒフや末梢神経の電気刺激・腱槌打,または急激な脱負荷(unloading)刺激が誘発因子となって出現する,反射性休止期を指している.SPはHoffmann(1919)によって初めてヒトで観察された.その後,SPの本態を明らかにするため多くの研究が行われ,筋紡錘・ゴルジ腱器官・レンショウ細胞の関与が指摘され,運動神経細胞体のレベルでもシナプス後抑制とシナプス前抑制のそれぞれの役割が指摘されてきた.しかし,いまだに一致した見解はない. Shahani and Young (1973)は主に手指筋を対象に,ヒフの電気刺激によるSPを研究し,その本態を次のように説明している.電気刺激で誘発される抑制期間は3つの要素で構成される.初期の約30 msecのSPは電気刺激が運動神経軸索を逆行性に伝導し,順行性に伝導する収縮信号を相殺することにより誘発される.従って,刺激強度が小さかったり,細胞体と筋の距離が小さい場合にははっきりしなかったり,欠如する.次の約20 msecはやはり逆行性伝導により活性化されたレンショウ抑制が分担している可能性がある.最後の50~70 msecは電気刺激やこれによる収縮が原因で刺激される固有受容器や外受容器からの入力による中枢の活動変化に起因している.特に最後の20 msecは,背景の筋収縮の程度によって変化することから,ゴルジ腱器官の関与が考えられる.彼らは,この仮説を証明するため,運動神経軸索に側肢やレンショウ細胞の存在が否定されている下顎閉口筋や,筋紡錘が欠如しているとされる顔面筋を対象に手指筋同様刺激し,記録されたSPを比較している.

3.筋の疲労および疼痛

 筋疲労は疼痛と関連して臨床上重要である.近年その研究は盛んになってきたが,臨床上の筋疲労の定義と,実験的筋疲労にはかなりのギャップがあり,診断・治療に有効な研究は少ない.ここでは,筋収縮・筋代謝・骨格筋の血流調節などの基礎的な事項を解説し,実験的に誘発される急性疲労を中心に,疲労の起こり易い部位,疲労の原因を,基礎的な研究例をあげて説明する.最後に,筋疾患としての筋疲労および筋痛に関して,近年の研究の動向を紹介する. この項目に関しては,顎口腔機能研究会から発行予定の”顎口腔機能分析の基礎とその応用”を参照されたい.


② [26-2 咀嚼筋活動の特徴 ]

東北大学歯学部 第2補綴学教室      渡辺 誠

 顎口腔系の形態学的特徴を反映し,咀嚼筋は複雑な筋活動を示す.これらの筋活動を的確に導出し,判読することは顎口腔機能を理解する上で最も重要である.そこで最も基本的な下記の筋電図学的事項について報告する.

1.咀嚼筋活動の一般的な導出法 咀嚼筋活動の記録法について,針電極,ワイヤ-電極および表面電極などの導出方法について説明し,その特徴,応用範囲などに言及したい.

2.咀嚼筋活動の誘発 各咀嚼筋より,その活動を導出するためには,その活動を誘発する必要がある.これまで,クレンチング,タッピング,任意の咀嚼運動あるいは電気刺激や機械刺激による誘発など種々の咀嚼筋活動の誘発法が用いられている.これらの誘発法は各々の咀嚼筋活動の記録の目的により異なり,選択されている.そこで各々の誘発法の特徴について言及する.

3. 各咀嚼筋活動の協調性 開閉口などの単純な顎運動を例にとっても各咀嚼筋は複雑な協調活動をする.この咀嚼筋系において観察される協調活動は他の骨格筋に比較し,著しく発達している.そこでこれらの咀嚼筋における協調性について最近の知見をふまえて報告する.

(註)以上以外に追加修正後の原稿が挿入される予定です.


③ [26-3 筋電図の測定・分析法]

 新潟大学工学部     木竜 徹  

 筋電図信号を解析する場合,設定した生理的実験条件を正しく評価するには,計測や分析を十分に理解しておかなければならない.筋電図の計測は,筋活動そのもの以外に電極の選択,筋線維の解剖学と電極配置の関係,生体計測アンプの特性に依存する.臨床では,往々にして筋線維の解剖学と電極配置の関係を無視しがちである.電極は,例えば筋活動の電磁界の中に配置されたアンテナのようなものである.生体計測アンプで筋電図信号をとらえるには,周波数特性を知っておく必要がある.また,種々の雑音対策を施すことになる.分析の第1段階は筋電図信号のデジタル化(サンプリングと量子化)である.コンピュータで解析する場合には避けて通れない関門である.分析法は大きく分けて時間留領域でのリズム分析と周波数領域でのスペクトル解析が,咀嚼筋筋電図解析では行われてきた.セミナーでは,以上の点について概説する.


④実習 [26-4 筋電図の測定と分析の実際]

大阪大学歯学部 歯科補綴学第1講座       赤西正光 新潟大学歯学部 歯科補綴学第1講座       小林 博

環境設定 1.ディスプレイ システム マルチチャンネル タイプ PAPER SPEED

2.筋電計

(註)本実習で用意できる筋電計は統一されておらず,旧式のものから新式のものまで3-4種類になる予定です.

3.記録装置 データーコーダー TAPE SPEED

4.電極 表面電極 小型表面皮膚電極(ベックマン) 針電極 MONOPOLAR NEEDLE BIPOLAR NEEDLE CONCENTRIC NEEDLE 電極間距離 10MM  (不感電極) 貼付方法 スキンピュア→アルコール (註)今回用意できる電極は表面電極で皿状のものになる予定です.(直径約11mm)

5.その他(スピーカー) バイオフィードバック

 EMGは筋細胞のelectrical activityを測定することであり,"motor unit"の障害により生じた電位の変化を検査することである. ↓  臨床筋電図検査…lower motor neuron…の異常 …muscle fiber … …motor end-plate … ↓ 中枢神経疾患に対しては試みだけ

正常筋電図の把握  1)REST  2)CONTRECTION minimun moderate maximum 3)TAPPING  4)CHEWING  5)BORDER MOVEMENT  6)etc.

異常筋電図の把握

臨床筋電図検査  1)現病歴の把握 筋肉痛 筋疲労 筋力低下

局所か全身か?  2)どのような運動とその筋肉が関連しているのか

 3)筋電計の設定 POSITIVE DEFLECTIONの方向の確認 基本設定 Amplitude 1μV/div. 100μV/div. 50μV/div Sweep速度 10msec/div. Lo-cut 1000 s. Hi-cut 0.1 Hz

 4)頭位,体位の決定 座位,立位? FH平面,CP平面?  5)電極貼付部位の前準備 6)検査の順番 軽作業→重作業

データー整理と分析  パーソナルコンピューター  シグナルアナライザー

 ①生データの判読  ②レスト時との兼ね合い  ③リズム分析  ④SP ⑤周波数  ⑥異常,正常の判断基準はあるか

(実習形態)

 前後半の2班に分かれて,交代に実習を行なってもらい,全員が筋電計に実際に触れられるようにいたします(1台の筋電計に対し5名程度).班分けは本冊子末の名簿の最後の欄に記載しました.A1-A5班を前半,B1-B5班を後半とします. 実習していない班はNTTの通信回線のデモあるいは,パソコン(PC98シリーズ)による筋電図の分析デモを見ることとすします. 実習内容は,測定準備からきれいな筋電波形が得られるまで,つまり装置の準備,設定,電極の貼付,雑音対策などを最低実習課題として,時間があれば,何らかの選択希望課題を行うこととします.分析,処理,診断などそれ以降の問題は原則として講義に譲らせていただきます.

   課題例  限界運動,咀嚼運動,TAPPING運動,咬合力と筋電図波形の関係,電極間距離と電圧の関係,SPの観察など.

 デモンストレーション  主として,筋電図実習の班分けで実習を行っていない人達のためにデモを用意しました.

1)あらかじめ用意したデータを用いて周波数分析など波形処理,分析を行う.

2)これとは別に, NTTのINSネットのデモも行われるが,その中の一部にも筋電図処理の内容が含まれる予定である.


⑤ [ 27-1 筋電図からみた顎口腔機能障害]

 東京医科歯科大学歯学部第2歯科補綴学教室

        河野 正司

1.はじめに

 筋電図記録は運動系全体の機能状態を知ることが出来る検査法である.この運動系の記録は,心電図や脳波といった自律性を持った生体電気現象の記録とは異なり,外部からの感覚入力に応じてその出力が変化するものである. そこで,定常性を持った顎口腔系の運動の記録にあたって,外部からの入力の変化による現象をEMGにより記録すれば,この運動系の末梢における変化あるいは異常を知り得る可能性がある. しかし,EMGの記録,特に咀嚼筋を対象とした記録は,種々の要素による影響を受けることが知られており,おのずからその検査法には限界がある.この限界を知りつつEMGを顎機能異常の検査に応用することが重要であり,この点に焦点を当てながら論を進めてみたい.

2.表面EMG記録における注意点

1)被験者の形態的要素について  通常使用されている表面EMGでは,筋線維と皮膚の間に存在する結合組織や間質液を容積導体として筋電位を記録しているから,電極下の皮膚の性状や皮下の脂肪組織の厚さにより記録される振幅値に差が生じて来る.また筋の活動レベル自体も年齢,性別に差異のあることが知られている. すなわち,等尺性収縮時の筋電図振幅値は,加齢と共に減少する傾向を示す.また,同一の筋張力を発揮する状態下でも,記録される表面EMGの振幅値は,男性と女性の間に差異のあるも指摘されている.このような理由から,EMGの振幅値の個人間の比較,あるいは個人内の左右側差の比較には充分な注意が必要である.

2)筋疲労に対する配慮について  測定が長時間におよび,筋が疲労状態になると,記録されるEMGの性質に変化が表われてくる.例えば,筋の示す活動電位と筋張力の関係が変化して,EMG/Force 比 が上昇したり,EMGの示すパワースペクトラムが変化する.  患者データを正常者群のそれと比較する場合には,測定時に筋の疲労状態について注意する必要がある.

3.EMG記録法について

1)被験者に与える負荷  定常性を持った次のような仕事を行わせて,EMG記録の観察が行われている. ① 安静時の筋活動  ② TAPPING 運動時の筋活動  ③ CLENCHING 時の筋活動 ④ 咀嚼運動時の筋活動

2)記録の対象となる筋  一般に次のような筋が対象となっている.  ① 咀嚼筋のうち閉口筋として:咬筋,側頭筋前部および後部  ② 開口筋として:顎二腹筋 ③ 頚部の筋:胸鎖乳突筋  ③ 針電極等を使用して:外側翼突筋,内側翼突筋

4.分析法 

1)時間的要素に関する分析  ① 筋活動のタイミング   ○ 咀嚼リズム ○ Tapping リズム   ○ 開閉口運動時の開口筋と閉口筋の協調活動

 ② Silent Period

2)振幅値に関する分析  筋はその張力が増すに従い,活動する運動単位の数が増加し,また個々の運動単位の発射頻度も増大して発射間隔は短縮する.このことから表面筋電図を積分的処理すると,振幅値は筋張力にほぼ比例するようになり,筋の活動様相を定量的に取り扱うことができる.

 ① 記録時の注意点  EMGの振幅値は,第2項で記したごとく,被験者の形態的な要素や,筋の疲労状態に大きく左右される可能性がある. さらにまた,EMG記録を行う被験者の頭位あるいは体位といった測定状態によっても,振幅値は変化する事が知られている. 振幅値を対象として分析を行うには,これらの点に留意しなければいけない.

 ② 分析法についての注意点 EMG振幅値の個人間の比較,あるいは個人内の左右側差の比較には充分な注意が必要である.このため,咬合の変化や顎機能の変化に応じた筋活動電位の絶対値の大きさを直接比較する事には困難な事が多く,1つの基準となる標準的な筋活動に対する,活動電位の相対的な変化を観察する事が合理性を持つことが多くなって来る.


⑥ [27-2 顎運動の測定・分析法]

 新潟大学工学部情報工学科

     林 豊彦

      1.まえがき  顎運動は歯科学の最初期から研究されてきたテーマであるが,その実像についてはいまだ不明な点が多い.歯牙や顆頭の3次元動態が分析されるようになったのは,この20年くらいのことにすぎない.この講義では顎運動の測定と分析に最低限必要と思われる考え方について述べる.

      2.顎運動の測定  顎運動は,教科書的には上下顎の3次元相対運動であるが,対合歯の微妙な接触や離開を論じなければいけない咬合学ではもう少し広い意味で捉えておく必要があると思う.図1に顎運動に関係する運動要素とそれらの相対運動を示した.上下顎間だけでなく,体軸や鉛直軸との位置関係や歯牙の動揺も,顎運動を論じるときには無視できない. 上下顎間の相対運動を記録する方法は,何を測定するかによって図2のように分類できる.一つはX線TVなどを使って顎骨の運動を直接測定する方法(直接測定法)であり,もう一つは顎骨に固定した機器の運動を測定する方法(間接測定法)である.間接測定法には,さらに顎の一部の運動を測定する部分測定法と,歯牙と顎骨を剛体とみなしてその3次元運動を測定する6自由度測定法がある.後者の方法は,任意の点の3次元運動が推定できるという他の方法にはない大きな利点がある(図3). 運動の記録法は,センサーの種類によって接触式と非接触式に分類できる.前者には描記針を用いたもの(ゴシックアーチトレーサなど)やロータリエンコーダなどの位置センサーを用いたものがある.後者では磁石,光,超音波が用いられている.

     3.顎運動の表現法  運動を数学的に記述するためには,座標系を設定しなければいけない.基準となる3次元直交座標系は一般に上顎骨に固定される.下顎には各歯牙上と顎骨上に直交座標系を設定できるが,下顎骨は運動時に変形するため下顎骨上の任意の点の座標は一定ではない. 2.で述べた6自由度測定法では,歯牙の動揺と顎骨の変形を無視するため,下顎上の座標系は1つで代表できる.その座標系に関する下顎上の任意点の座標は一定であると仮定する.その結果,顎運動は上下顎に固定された2つの座標系間の3次元相対運動で表されることになる.

     4.顎運動の分析法  運動分析には,速度・加速度などの力学的分析と,軌道の幾何学的性質を扱う運動学的分析がある. (1)力学的分析: ある点のある時刻における速度と加速度は,物理学で習ったように位置の時間微分によって定義される.しかし実際には,運動データはサンプリングされた離散データとして与えられることが多い.その場合,速度と加速度は差分を用いた公式(3点公式,5点公式)から近似値を求める. 6自由度測定法のように下顎運動を剛体の6自由度運動と仮定すれば,剛体運動の力学を利用してもう少し詳しく分析できる.回転運動を伴う任意の剛体運動に対して,角速度ベクトルが一意に定まり,任意の点の速度は座標系の原点の運動による成分と回転運動による成分の和で表すことができる.速度が零になる点を瞬間回転中心という.離散データで与えられている時は,2つの顎位に対して回転軸が一つ定まり,顎運動はその回りの回転運動と軸方向への並進運動で表すことができる.この軸上の点は移動距離が最小になる. (2)運動学的分析: 歯科学では,顎位の再現性に優れた咬合器の開発と顎運動に調和した咬合面形態を明らかにするという2つの要求から,ギージーの軸学説に代表される顎運動の運動学的モデルが古くから提唱されてきた.その中で,今でもしばしば用いられる終末蝶番軸モデルと全運動軸モデルについて述べる. 終末蝶番軸モデルは,矢状面内運動の一つであるヒンジ運動を軸回転運動で表すものである.この軸の近似を患者で求める方法としては,不動点に近い2つの点を描記法で求め,それらを通る軸とする方法が一般的である. 運動範囲をヒンジ運動から矢状面内運動まで拡張したものが全運動軸モデルである.この運動範囲ではもはや不動点は存在しないため,軸上の任意の点の運動できる領域(運動域)の矢状面観が広がりをもたない曲線になる点を回転軸とする.咬合器の顆頭球中心はまさにそのような運動域をもつから,このモデルは矢状面内運動の咬合器モデルと考えることができる.この軸の近似を患者で求めるには,矢状面内限界運動において往復運動に近い運動をする点を探索する方法が採られる(図4).

       5.あとがき  最近まで6自由度の顎運動測定は限られた研究機関でしか行うことができなかったが,近年になっていくつかの装置が市販されるようになった.それに伴い今後は,顎運動分析も従来の切歯点や顆頭外側点だけの分析から顎全体の運動分析に発展していくものと思われる.私個人の経験からすれば,この分析は顎機能異常や咬合の診断や治療にとって極めてに有効であり,将来は診断や治療に不可欠なものとなると思われる.

図1 顎運動に関係する運動要素と相対運動 図2 顎運動の記録法の分類 図3 下顎上のいくつかの点で観た顎運動路 図4 矢状面内限界運動による顆路 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 歯牙              歯牙・ ・・ ・下顎骨        上顎骨・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(鉛直軸)

         体 軸

図1 顎運動に関係する運動要素と相対運動 ・・・直接測定法(画像測定法) ・ ・・・間接測定法・・・・・・・部分測定法          ・・・ 6自由度測定法 

図2 顎運動の記録法の分類


⑦ [27-3 咬合と顎運動]

徳島大学歯学部歯科補綴学第2講座      坂東 永一

 徳島文理大学工学部情報システム工学科

      藤村 哲也

 1. 6自由度顎運動測定  顎運動に調和した咬合面形態を検討するなどの場合には上顎と下顎の立体的位置関係を知る必要がある.この時,歯の動揺や顎骨の歪みなどを考慮に入れなくてもよければ,つまり上下顎それぞれを剛体とみなしてもよければ,互いに独立した6個のパラメータを確定することで目的を達成することができる.このように切歯点や顆頭点などある特定の点の運動でなく,下顎全体の立体運動を測定することを6自由度顎運動測定という.

 6自由度顎運動の表現法 P=V・P′ ただし P=(x,y,z,1)t P′=(x′,y′,z′,1)t l1 l2 l3 x0 m1 m2 m3 y0 V= n1 n2 n3 z0 0  0  0  1

測定データ→標準型式:重心基準剛体化処理,最小2乗法

 ディジタル方式顎運動測定器 徳島大学型 MM-JI:ソニーマグネスケール社製マグネスケール 商用機松風 MM-JIE:東北金属社製磁気スケール

 2. 運動データと生体との対応   1) 任意点       生体標点測定針 2) 咬合接触とクリアランス   3) 顎関節

3.6自由度顎運動測定法の評価 ① リアルタイム性:顎運動を即時に観察できるか. ② 測定範囲:最大開口を含むあらゆる運動を測定できるか. ③ 測定精度,信頼性:解析対象点における分解能,直線性,データの再現性は十   分か. ④ 生体との対応:運動データと生体との対応は容易かつ正確にとれるか. ⑤ 動特性:速い運動,遅い運動も正確に測定できるか. ⑥ データ型式,インターフェース:計算機への接続ならびにデータ処理は容易か. ⑦ 操作性:測定は容易にできるか. ⑧ 侵襲性:頭部固定,顔弓の設置等被験者への侵襲の程度はどうか. ⑨ 標準化,商品化:測定機器の入手は容易か,データ等の互換性はあるか.  以上を総合して ⑩ 実用性:研究あるいは臨床上の使用目的に対し十分な性能を有しているか.

 4. 顎機能制御系 Craniomandibular Control System (CCS)

5. ビデオによる6自由度顎運動の供覧

6. 6自由度顎運動測定器 松風MM-JIE の供覧

7. 質疑,討論

         以上 


⑧ [28-1 咀嚼運動の機能分析による顎口腔機能障害の診断]    日本歯科大学歯学部 歯科補綴学教室第1講座                         小林 義典  咀嚼機能は,頭頚部の諸器官,特に末梢効果器系,これから起こる感覚入力系,中枢処理系,その運動出力系が総合的に働いて,食物の性状に適したリズミカルな咀嚼運動が行われるという咀嚼運動システムによって営まれる.また,末梢効果器系のうち,特に歯,顎関節,顎筋の三要素は密に関連していて生理的な条件下ではバランスが保たれているが,一つの要素が異常に刺激されると,他の要素にも病的に作用し,三要素に加え,顎筋を支配している神経系で構成される機能的咬合系ないしは顎口腔系全体としての機能異常が出現する.したがって,顎口腔系の機能を客観的に評価するためには,咀嚼運動を分析することが極めて重要である.  近年,咀嚼運動におけるリズムと経路の観察に基づく安定性に関する研究が多く行われるようになり,客観的評価の可能性が示唆されるようになってきた.しかしながら,これらは,分析区間,運動リズムのみの検索,経路の定量的評価などの妥当性について明示するまでには至っていないのが現状である.  かかる状況から,演者らは,咀嚼運動におけるリズムと経路の定量的評価による咀嚼機能の客観的評価法の確立を目的として,まずはじめに咀嚼運動自動分析装置を開発し,次いでこれを用いて正常者と顎口腔機能障害患者との間の機能的差異を分析後,顎口腔機能障害の診断のための表示法の検索を試みた.  その結果,以下の結論を得た.  1. 咀嚼運動のアナログ信号をデジタル信号に変換し,閾値設定後,開口相,閉口相,咬合相の各開始点の認識から時間的要素によるリズムと前頭面における開閉口路の上下的10分割点による平均経路を自動的に求められる咀嚼運動自動分析装置を開発できた.  2. 無作為に選択した20歳代の被験者20名のガム咀嚼開始後30ストロークにおける開口相,閉口相,咬合相の各時間は,同装置の計測とノギスによる実測との間に有意差が認められなかった.また,同装置による平均経路は,開口量が変動しても重ね合わせ表示した経路の水平的,垂直的中点を通過した.  3. 同装置で記録した20歳代の正常者20名のガム咀嚼開始から1ストロークごとに順次起点とした各連続10ストロークの21シリーズにおけるリズム経路は,第5からの10ストロークが最も安定していた.  4. 同装置による21~32歳の正常者67名と19~36歳の患者54名のガム咀嚼開始後第5からの10ストロークにおけるリズムの安定性を表す指標(開口相時間,閉口相時間,咬合相時間,cycle timeの各変動係数),また経路の安定性を表す指標(開口時側方成分,閉口時側方成分,垂直成分の各SD/OD)は,ともに患者群の方が正常者群よりも有意に大きかった.  5. リズムと経路の安定性の正常範囲は,上記の各指標値がmean+1SD以内で,リズムの安定性が4指標中3指標以上,経路の安定性が3指標中2指標以上の条件で設定できた.  6. 以上の結果から,リズムと経路の安定性を表す各指標値における正常者群のmean-1SD,mena,mean+1SD,患者群のmeanによりレーダーチャートを作成し,咀嚼運動におけるリズムと経路の安定性を視覚的かつ明確に判定できることが明らかになった.また,このレーダーチャート上に被験者の数値データを併せて表示できるように咀嚼運動自動分析装置に含めてシステム化し,咀嚼運動自動分析システムとして完成することができた.  7. この咀嚼運動自動分析システムにより,咀嚼運動におけるリズムと経路の定量的評価による自動的かつ視覚的な咀嚼機能の客観的評価法の確立が示唆された.  そこで,上記の咀嚼運動自動分析システムを用いた顎口腔機能障害の診断における咀嚼運動の定量分析による客観的評価法について,各種症型ごとに診査,診断,治療,ならびに治療判定の経過を症例で呈示してみたい.  なお,他のME機器を用いた顎口腔機能障害の診断については,臨床所見,各種臨床検査とともに症例を中心に補足する予定である.